デザイン四方山話(トップページ)/感性を磨く
1 美の判断基準
2 造形の必然性
3 バリエーションを生む技術
4 日本のアイデンティティーの確立
5 伝統と新感覚
6 デザインに密着するキャッチフレーズ
7 日本デザイン史 


3 バリエーションを生む技術
バリエーションを生めないデザイナーは未熟
 画家は一枚の絵を完成させるために、完成作かと見紛うほどの「習作」を多く描きます。バリエーションはそれと同じです。テーマを完成させるためには、主体のあらゆる発展形を模索し、もっとも意に適った作を採用します。頭の中ではさまざまな発展形が動き回ることでしょう。しかし、実際に視覚化して空間にはめ込んでみることが重要です。コンピューターの時代は、それが実に簡単に、素早くできるようになったのですから。
 デザイナーに要求される才能のなかで、もっとも重要で常に留意するべき要素は、この、バリエーションを生む力量です。そして、バリエーションから「クセ」のないオリジナル作品を生む自信を身につけることは、デザイナーにとって不可欠の条件です。それには、こどものように柔らかな脳細胞を維持し、鍛えることが必要です。
 デザイナーの多くはクリエーターと称し、自分で考えることを至上としているようです。しかし、この考えには「どこまで」という明確な視点が感じられません。クリエーターとしての職分が理解できていれば問題はないのですが、もし、なにか「新しいこと」をしようと考えているとしたら、それは自分のキャパシティーの容量が解っていないことであり、他人の批評を許容できず、最悪のばあい、「自己流」という「クセ」のある、ひとりよがりのものしか生み出せなくなります。
 ある著名なデザイナーがスタッフのデザイナーに言いました

 「お前らのくだらない頭で考えるな。お前らの考えるものくらい、もう、とっくに先人たちがやってしまっている。それをもらってしまえ。早い話、クリエイターなんざ、神以外にいない。」と。
 まあ、そこまでは言い過ぎとしても、全く新しい形などは生み出すことはできないと思った方が早いです。「新しい形」と言えるもの、それは、すでにある「モノ」から「全く別の世界」を感受すること、と考えて良いでしょう。ですから、テーマに即するのは何かを「選ぶ目」こそデザイナーの力量とも言えます。ところが、解っているようでいて、制作のテーマを受けるたび、常に苦労している人は、新しい世界ができないのではなく、「すでにあるもの」から発想するのは模倣だ、だから自分で作る、という思いが、思考を鈍らせ、いわば神の領域に踏み込ませている「フシ」があるのです。
これは、バリエーションを生む力があれば感じることができる思考の世界、拙くとも自分が経てきた経験、優れた作品や伝統の文様、それらが誘発するテーマに則した世界が広がるのを拒否していることになります。
 グラフィックデザインに限らず、教育において、「個性重視」を標榜していることも問題です。「クセ」と「個性」を混同して固まってしまう人が多く、経験上、現場で使いものにならない人が多く見られます。
 バリエーションを生む力量がなければ、将来プロのデザイナーとして、複数のクライアントを持つことができません。何をデザインしても、その作家特有の画一的なイメージ表現しかできないようでは、職種や個性の違う企業、商品の違いなどを明確に表現できません。しかしこの、作者の身についている視覚同一性を「個性」といったデザイナーがいます。その個性しかないのであれば、ファインアートの世界に入った方が良いことになります。
 演劇やドラマの世界でよく見られますね。有名な俳優で、数種のドラマの主役をもらいながら、どの役を演じても同じような演技しかできない人がいます。ちょっとしたしぐさひとつにもその俳優のクサミが邪魔をして、見る側をして劇中に引き込ませてくれません。名優といわれる人にはそれがありません。個性とは名優のようなもので、劇の違いがクライアントや商品の違いであるように、クライアント側の要求を、いかようにも視覚化できる、あるいは、文章でいう「推敲」ができる柔軟な思考と幅広い知性を養わなければなりません。その上で消すに消せない自己の個性は「これだ」と、明解に認識できる力をつけなければ良いデザイナーとは認められません。

 常日頃から発展形を生む訓練、そして豊かなイメージの引き出しを持つ努力をしておかなければ、デザイナーとしてはいつまでも未熟なままなのです。

発展のさせ方の具体的なメニューを作る
 さて、制作に入って、まま行っている無駄のひとつに、アイデアの横並びがあげられます。
 例えば、コンセプトにしたがって「花」をテーマにしよう、と考えた。「花」はどれにしようか。梅にするか桜にするか、百合がいいか、椿にするか・・・と、さまざまな花を横並びに考える。これはバリエーションではなくアイデアの羅列です。
 テーマとしての「花」の選択に巾を持たせるのはもちろん重要です。しかし、これは依頼主からの要請の「花」とか、なにかのシンボルフラワーだってあり得るのです。ですから、テーマにもっともふさわしい「花」を選んでからがバリエーションの本領なのです。
 テーマ(モチーフ)に決めた「花」は、それ自体で完成しているのではなく、それを千変万化させた表現が魅力をもつかどうかでデザインの良否が決まります。コンセプトにもっともふさわしい「花」の表現に近づくまで、多様に発展させることが大切です。
 例えば、素材集を手にしたとき、ひとつの素材を抜き出し、収録画像のままで使われているものが多く見られます。素材集の便利さは、自分の感覚にはないモチーフや雰囲気のヒントが得られることで、そこから無限に発展形を生むことができる、いわばデザインベースが提供されていることです。料理で考えれば「素材」の意味が明解になります。もちろんそのまま食した方が良い素材もあります。その場合でも、お刺身のように、捌き方、盛りつけ方が料理の良否を分けます。また、煮る、蒸す、焼く・・・など、料理の基礎をマスターしていなければ巷の主婦に変わりません(もっともプロ級の主婦もおられますが)。オリジナルと呼び、おいしいと評価される料理人になるには、素材を組合せ、煮詰め、裏ごしし、味付けをし、素材のカゲをとどめないくらいに姿を変えながらなお、素材のおいしさを保ってこそ、お金のとれる料理人なのです。素材をそのまま使えば、同じ素材がさまざまな作家によって重複することになります。世間に同じものが存在する、と思えば、次々に新しい素材集を手にしなければならなくなります。良質の素材集ほど資料としての価値があり、発展形を無限に生み出せるように工夫されています。
 したがって、素材集は、必ずその発展形を作って使用するをことを自身の決め事としておくべきでしょう。資料となる素材集の良さはまた、収録画像を客観視できることです。伝統とか、秀作といわれているもの(下の場合は花)を変形させる訓練は、この客観性があるからバリエーションを生む力が養われるといえます。
 基礎に則ったバリエーション作っていると、それはやがて、自己流ではない、個性的な「花」を描く力となって開花します。


素材集を使ってバリエーションを作るには、2つの方法があります。

■右図-1
 デザインで多用される「Adobe Illustrator 」「Adobe Photoshop」のツールは、バリエーションを作るためのツールといってよいほど優れた機能をもっています。この「Adobe Illustrator 」のパスデータを使って、さまざまなバリエーションを作る場合、いちばん易しい加工方法は、
●描かれた要素をユニットの大小で分解
●回転、反転、変形・・・・
●色替え
●配置換え
●背景などのデザイン要素を加えてみる
●絵柄として成立する最少ユニットを作る
●それを並べる、囲みやボーダーを作ってみる

「Adobe Illustrator 」で完成したものを
●「Adobe Photoshop」で各種フィルターでマチェール加工
などの変形加工は短時間で試作できます。

■右図-2
 
発想を広げた例。
 モチーフにもよりますが、作業の前に、
●ロマンティック
●田舎風
●古風
●荘重
●軽快・・・等々、
どういう雰囲気(場面や状況)にするか、コンセプトに合ったイメージ練り上げておきます。
 右図は、同型絵柄を異なった感覚で瞬時に変化をさせた例。

 このように、モチーフを加工する場合、自分勝手に作るのではなく、デッサンは図鑑や秀作で目を肥やし、背景、場面、空間構成、色彩・・・などは正統性のあるものを下地にします。
 いちど変化させた例は、自分の手持ちの「メニュー」として詳細データを保存しておくと次のテーマに生かせます。というのは、描かれたイメージは、生みだした数だけあるように感じて、いわば無限のように思われますが、実は、イメージの公約数としてまとめると案外絞りきれるものです。それを自分の「メニュー」として記憶しておけば、その約数から発展し、記憶しているイメージが倍数となって広がります。
 常に「どうしようか」と迷うより、いったんは自分のメニューに当てはめ、それにおさまりきらないイメージは、またメニューに追加すればよいわけです。
 

バリエーション余談/変奏曲
 音楽における完成された一曲は、テーマとそのバリエーション(変奏)で成り立っています。例えば、誰にも好かれているモーツアルトの「キラキラ星変奏曲」は、テーマが簡単だけに「変奏」の妙味がよく解り、世界をクルクルと変え、広げていきます。バッハの「ゴールドベルグ変奏曲」は、変奏の巧みさ、奥深さ、多様さにおいては出色です。
 ある日モーツアルトのもとを訪れたベートーベンに、彼は8小節のテーマを与え、変奏曲をピアノで弾くよう指示します。ベートーベンは、モーツアルトが「もうやめてくれ」と叫ぶほどにその変奏曲を際限なく弾いた、という話があります。ことほどさように、それだけの変奏を生むほどモーツアルトのテーマが良かった、といえますが、それだけの変奏を生むほどベートーベンには変化形を生む才能があったともいえます。もっとも、この音楽における変奏は、そのまま完成品として生かされるところは、デザインで言う「バリエーション」とは違います。が、バリエーションとはなにか、どうあるべきかに大きな示唆を与えてくれます。
 

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図-1
1)元絵
2)色替と配置換え
3)色替とデザイン替
4)ランダムに並べる
5)整然と並べる
5)絵画風に加工


図-2
1)元絵
2)淡い色でロマンティックに
3)切り絵で田舎風
4)赤漆絵で古くさく
5)同一絵柄で荘重に
5)同一絵柄で軽快に

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