デザイン四方山話(トップページ)/感性を磨く
1 美の判断基準
2 造形の必然性
3 バリエーションを生む技術
4 日本のアイデンティティーの確立
5 伝統と新感覚
6 デザインに密着するキャッチフレーズ
7 日本デザイン史 


6 デザインに密着するキャッチフレーズ

 
デザインに密着するコピー
 一瞬で多くの情報を伝えることができるのは「視覚」効果です。しかし、視覚言語は言葉のように明解な概念を伝達するわけではありません。したがって、「伝えるべき目的」をビジュアルに秘めるばあい、不特定多数の共感を得るためには、写真であれイラストであれ、世情を分析し、人心を知り、振り向かせるだけの戦略眼が必要です。そして、その詰め込んだビジュアルを、時間差を生かしてその目的の一点に絞り上げる、それがキャッチフレーズです。
 わが国の広告黄金時代に生まれた魅力的なキャッチフレーズは、今もなお記憶され、時に応じて変化させ、その精神が引き継がれています。面白いのは、考えてみれば当たり前のことなのですが、衝撃的とか、カッコイイ言葉などで一世を風靡したキャッチフレーズより、言葉のどこかに人間の本質が隠されているキャッチフレーズの方が、魅力と記憶において勝っていることです。しかし、その類のキャッチフレーズは案外少ないのです。そんななかで、機会ある毎に話の種としてのぼるのは、「なんである アイデアル(1963)アイデアル洋傘」「ワーゲンのあるバーゲン(1965)銀座松屋」 風のだじゃれ、言葉のリズム、言葉遊びは、いつの世にもはばを効かせています。
 優れたキャッチフレーズの背景を知ることは、デザインする上で大きなヒントを与えてくれます。

印象に残っているキャッチフレーズを挙げてみます。
●「スカッさわやか コカコーラ」
 現在でも時に生かされている息の長いフレーズで、メロディーまでが蘇ります
●「ワタシニモ ウツセマス(1965)富士フイルム」
 東京オリンピックの年、やがてくるビデオカメラの使いやすさを感じさせる「8ミリカメラ」のフィルム装填の手軽感を出し、機械音痴と思われていた女性でも扱えるというコンセプトがストレートな訴求力を持っています。
●「白いクラウンは「男ざかり」にふさわしい(1967)トヨタ」
 高級車は「黒」というイメージのクラウンが、やや経済的に余裕が出てきた中年層が、日常生活に気軽に使うという軽快感を表現したものです。しかし、時代に合ったコンセプトであっても、どこかに情報提供側の作為が見え透いてしまうこの種の言葉づくりは、あまり良いとは思えません。
●「コーヒーのみのコーヒー(1967)ネッスル」
 このように、コーヒー好きは濃いコーヒーを好むと分析した上で、コーヒーのみの優越感をくすぐって、押しつけがましくドライに表現した方が好感度が上といえるでしょう
●「ひとまわり 暮らしがひろがる冷蔵庫(1969)ナショナル電気」
 まだこの時代は冷凍食品も少なく、家庭で冷凍できるほどの優れた品質でもなく、実際は、主婦が夢見る生活への憧れを叫んでいるに過ぎません。言葉まわしにすぐれ、反発を怖れないところは良いのですが、ウソが見抜かれる言葉遣いであることは否めません。
●「モーレツからビューティフルへ(1970)富士ゼロックス」
 わが国の時代の区切りを的確に表現し、最高の評価を受けた企業広告のキャッチフレーズです(かの竹村健一氏の造語らしい)。その時代だけに通用する強烈な個性を持つキャッチフレーズですから、当然時代を超える普遍性はありません。フレーズとしてみてみると、「モーレツ」はやや理解できる時代背景ですが、「ビューティフルへ」はアイマイで、企業姿勢だけのような感じがして、現代のような世情のばあい、ある「ツッコミ」が入ったらどうします?と、問いかけたくなるキャッチフレーズです。また、ヴィジュアル化もかなり難しい言葉です。
●「おいしく炊くコツ お米に”起立”させることです(1969)」
  40年前のガス炊飯器の広告です。この「米が立っている」という概念は、おいしいご飯の代名詞ともなり、そうした言い回しはいつの世でもひとを惹きつけます。
●「おフロもどうぞ・・・のアンネです」
 アンネの商品名がすべてを物語っているように、余分な商品説明もなく商品特性を言い得て最高の評価を受けたキャッチフレーズです。
●「男は黙ってサッポロビール(1970)」
 男はこうありたい、という傲慢さではなく、女房に口答えができない男の悲哀も感じられ、これはアヤフヤな言葉と言うのではなく、聞く人、見る人の心情に反映する、スケールの広い魅力あるフレーズなのです。
●「ディスカバージャパン(1970)国鉄」
 観光旅行を、体験旅行にするという、旅の楽しみ方を代える言い得て妙なキャッチフレーズです。
●「アサヒビールはあなたのビールです
  50年も前から、一貫してあらゆる広告媒体で目にしました。商品名を入れながらいやらしさもなく、岡部冬彦のかげの薄いイラストと共に執拗に繰り返されました。永井一正氏のロゴと社長交代によるイメージ転換の成功まで、長い間その枠を出られなかったのは、体に染みつかせてしまおうとする、購買時点でなくてはならない「空気のような存在感」をねらっていたように思えます。
●「おいしい生活(1982)西武百貨店」
 一世を風靡し、今でも名作と語り継がれている糸井重里氏作を時代の寵児としたキャッチコピー。いわば、シュールレアリズムを一言でいえば「手術台のコーモリ傘」的な手法である、短い言葉の組合せであり、人生観をも含む生活の充実感を描き出す才能には驚かされました。が、正直言って、「不思議、大好き。(西武百貨店)」とか、「ロマンチックが、したいなあ(サントリー)」などの、どこか舌足らずなコピーは、広告効果とは関係なくあまり好きではありません。何故か?と問われても、肌が合わないとしか言い様がありませんが。
 氏の作品には、「いまのキミはピカピカに光って(ミノルタ)」「中国四千年の味(明星食品)」「愛は地球を救う(日本テレビ, 24時間テレビ)」など、誰にでも言えそうで、露出を絞り込んで映像を鮮明にしたような小気味よさを持つ作品ももちろん数多くあります。


 近年のコマーシャルで、名作と言われ、記憶にとどまっているものはそう多くありません。しかし、年々ユーモアの感覚は洗練されています。テレビコマーシャルでは、面白くないものはトイレタイムと言われていますから、番組本体よりCFの方が人気がある、などと言われるための方式として、コマーシャルソングの変化があります。
 以前のような、「伊東へ行くならハトヤ 電話は4126(ヨイフロ)」式の直接的CMソングではなく、アーティストと呼ばれる歌手の起用で、相乗効果をねらって利益を共有する、または、CMソングに起用することによって新人歌手を育てる、といった、あの手この手の戦略が立てられます。うまく効果が出れば良し、CMソングが有名になれば、結局何の広告だったかが印象に残らない、といった悲劇も起こります。
 さまざまな戦略が、戦略として透けて見える場合は広告効果は期待できません。やはり、必然的要素が、どこかでピッタリと重なり合っていることが重要なのでしょう。
●「なにも足さない なにも引かない(サントリー)」
 開口健氏作とも西村佳也氏作とも言われ、作者はよく解りません。しかし、そんなことはどうでも良いことで、キャッチコピーとしては出色です。
 単純にしてキレの良い反意語が哲学的ですらあり、私のもっとも好きキャッチコピーです。
 

 一瞬のうちに、対象者に強烈な印象を与えるキャッチコピーは、語句の短いことが重要です。これは、17文字で広々とした世界を表現する「俳句」に似て、生みだす行為は芸術的ですらあります。
 ことほど左様に、あるテーマをデザインしようとするとき、先ずキャッチフレーズ的にテーマを単純化して考え、その映像を頭に思い浮かべる方法が考えられます。これは私見ですが、具体性のあるキャッチフレーズを生むと映像が追いかけてきますし、逆もまたあります。日本に生まれ育った人は、美しい映像(風景など)を最小限の言葉に閉じこめる俳句の世界(言葉のリズム感)は教えられなくても持っています。結局デザインは、映像と言葉の糾える縄のようなものなのでしょう。


  
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スカッさわやか コカコーラ

ワタシニモ ウツセマスと扇千景

白いクラウン

おフロもどうぞ

男は黙ってサッポロビールの三船敏郎

ディスカバージャパン

アサヒビールは・・・

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